授乳中のサプリメント選びの基本|成分表示の見方と専門家への確認ポイント

授乳中のサプリメント選びの基本|成分表示の見方と専門家への確認ポイント

授乳中にサプリメントを飲んでいいのか。この疑問は、産婦人科の待合室でも助産師の訪問指導でも、繰り返し出てくる。私自身、出産経験のある知人から「鉄剤は病院で出たけど、市販のマルチビタミンは飲んでいいの?」と何度も聞かれた。

結論から言うと、授乳中はサプリメントを避けるべき成分と、むしろ食事だけでは補いにくい成分の両方が存在する。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、授乳婦の推奨量が非授乳期より高く設定されている栄養素がいくつもある。ただし、市販サプリの成分表示は素人には読み解きにくく、含有量の単位もmg・μg・IUと入り乱れている。

この記事では、成分表示のどこを見るか、専門家に何を聞くか、公的資料のどこを参照すればいいかを、実務的に整理する。医薬品的な効能効果を語る記事ではない。判断材料を渡すための地図だと思ってほしい。

この記事の要点

  • 授乳婦の推奨栄養素は「日本人の食事摂取基準2020年版」で個別に規定されており、たとえばビタミンAの推奨量は非授乳期の650μgRAEから1,450μgRAEに増える(厚生労働省)
  • サプリメントの成分表示で確認すべきは「1日摂取目安量あたりの含有量」「上限値との距離」「原材料名の順序」の3点
  • 脂溶性ビタミン(A・D・E・K)は過剰摂取で母子ともに影響が出やすく、耐容上限量を超える製品は要注意
  • ハーブ系サプリ(セージ・パセリ抽出物・ペパーミント高濃度など)は母乳分泌への影響が報告される成分があり、購入前に助産師・薬剤師への確認が推奨される
  • 相談窓口は「妊娠と薬情報センター(国立成育医療研究センター)」「地域の薬剤師会」「かかりつけ産婦人科」の3経路が使いやすい

毎日の習慣に取り入れやすい一本として、Five Point Detox も参考にしてみてください。

なぜ授乳中の栄養補給が「食事だけでは足りない」と言われるのか

授乳婦は、母乳を通じて1日約780mLの水分と栄養素を赤ちゃんに渡している。厚生労働省の食事摂取基準では、この分を差し引いても足りない栄養素について、非授乳期より高い推奨量が設定されている。

具体的にいくつか並べてみる。ビタミンAは非授乳期の650μgRAEに対して授乳婦は1,450μgRAE(+800μg)。ビタミンB1は+0.2mg、B2は+0.6mg、B12は+0.8μg、葉酸は+100μg、ビタミンCは+45mg。鉄は+2.5mg(月経なし基準)、亜鉛は+4mg、カルシウムは付加量なしだが推奨量650mgのまま維持。ヨウ素は+140μg。(すべて厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020年版」による)

この付加量の合計を、日常の献立だけで安定して満たすのは正直しんどい。私の周りの授乳中の友人は、朝は赤ちゃんの授乳、昼は片手でおにぎり、夜は夫が帰ってからやっと座って食べる、というリズムだった。栄養バランスを考えて自炊する余裕がないから、結果として不足しやすい栄養素が出てくる。

ここでサプリメントが「食事の代わり」ではなく「食事で埋めきれない差分を補うもの」として選択肢に入ってくる。あくまで補助である、という位置づけを外さないことが大事。

不足しやすいと言われる栄養素の傾向

令和元年(2019年)の国民健康・栄養調査を見ると、20〜40代女性のカルシウム摂取量は推奨量に対して平均で7割前後、鉄は月経ありの推奨量に対して7〜8割にとどまる。授乳婦を対象にした個別調査ではないが、若年女性全体で底上げしにくい栄養素の傾向は把握できる。

特に注目されているのがビタミンD。母乳中のビタミンD濃度は母体の血中濃度に依存するため、母体が不足すると乳児のビタミンD欠乏(くる病リスクの上昇)が国内でも小児科領域で報告されている。日本小児科学会は乳児へのビタミンDに関する啓発を継続的に行っている。

成分表示の見方 ― 含有量・上限値・原材料の順序

結論を先に言うと、パッケージ裏の「栄養成分表示」ではなく、「1日摂取目安量あたりの含有量」と「原材料名」を並べて見るのが正しい読み方。

栄養成分表示は食品表示法で義務化されているエネルギー・たんぱく質・脂質・炭水化物・食塩相当量の5項目のこと。サプリメントの本命成分(ビタミン・ミネラル・機能性成分)は、任意記載か「1日摂取目安量あたり」の別枠で書かれていることが多い。ここを見落とすと「何がどれだけ入っているか」が分からない。

チェックポイント1: 単位を揃えて上限値と比べる

ビタミンAは製品によって「μgRAE」「IU(国際単位)」「レチノール当量」と表記がバラバラ。1IUのビタミンA(レチノール)は約0.3μgRAEに換算できる。授乳婦の耐容上限量は2,700μgRAE/日(食事摂取基準2020年版)。輸入サプリで「10,000IU」と書いてあれば、単純換算で3,000μgRAE。これは上限を超える。

脂溶性ビタミン(A・D・E・K)は水溶性と違って体内に蓄積されるため、上限値との距離を必ず見る。ビタミンDの耐容上限量は授乳婦100μg/日、ビタミンEはα-トコフェロールとして700mg/日。数字を頭に入れなくていい、パッケージを見て「これは食事摂取基準の何割か」を確認する習慣だけつけておけばいい。

チェックポイント2: 原材料名の順序

食品表示法上、原材料名は含有量の多い順に書く決まりになっている。「還元麦芽糖・デキストリン・○○エキス末・ビタミンC・…」と並んでいた場合、実質は麦芽糖とデキストリン(賦形剤)が主成分ということ。

サプリメントの主役として謳われている成分が原材料の3番目以降に来ている製品は、含有量が想像より少ないケースがある。値段と含有量を並べて「1mgあたり何円か」を計算すると、コスパの差がびっくりするほど出る。

チェックポイント3: 「/添加物」の後ろ

スラッシュや改行の後に書かれる項目は添加物。ステアリン酸カルシウム、二酸化ケイ素、着色料、香料などが並ぶ。授乳中に添加物を完全にゼロにするのは現実的ではないし、これらの添加物の使用は食品衛生法の基準内で認められている。ただ「無添加」を売りにしている製品と、添加物が5〜6種類並ぶ製品では、飲み続ける安心感が違う、という考え方はある。

授乳中に注意した方がいい成分カテゴリ

結論から。授乳中に避けた方がいい、あるいは医療者への確認が推奨される成分カテゴリは、大きく4つに分けて理解しておくと整理しやすい。

1. 脂溶性ビタミンの高用量製品

ビタミンA・D・E・Kは体内に蓄積される。特にビタミンAは、レチノール型(動物性)を大量に含む肝油・レバー由来サプリで注意が必要。β-カロテン(植物性・体内で必要量だけAに変換)ならリスクは低いとされる。パッケージに「レチノール」「レチニル」の記載があれば量を見る。

2. ハーブ・植物抽出物

セージ、パセリ、ペパーミント、ハトムギ(ヨクイニン)などは、伝統的に母乳分泌への影響(減少方向)が言い伝えられてきた。逆にフェンネル、フェヌグリークは母乳分泌を促すとされる民間伝承がある。ただし、これらは食品として少量摂る分と、濃縮抽出物をサプリとして毎日飲むのはまったく別の話。ハーブ系サプリを検討するなら、必ず助産師か薬剤師に成分名を見せて確認する。

3. カフェイン・興奮性成分

ガラナ、マテ茶エキス、緑茶カテキン高濃度品などにはカフェインが含まれる。授乳婦のカフェイン摂取について、欧州食品安全機関(EFSA)は1日200mg程度までを目安としている。コーヒー1杯(約80〜100mg)を数杯飲むレベル。サプリで無自覚に上乗せしないよう、原材料に「〜エキス」がある場合はカフェイン含有の有無を確認する。

4. 過剰なミネラル・重金属混入リスク

海藻由来のヨウ素サプリは、ヨウ素含有量が製品ごとに桁違いにばらつく。日本人はもともと海藻からのヨウ素摂取が多い民族で、授乳婦の耐容上限量は2,000μg/日。昆布エキス系のサプリで簡単に超えることがある。また、輸入サプリの一部で鉛・カドミウム・水銀などの微量重金属が基準を超えて検出された事例が過去に報告されている(国民生活センターなど)。国内のGMP認証工場で製造された製品を選ぶ、という基準は判断材料になる。

専門家に確認するときの「聞き方」

結論。「これ飲んで大丈夫ですか?」と聞くのは、専門家にとって答えにくい質問。答えやすい聞き方に変えると、返ってくる情報の質が上がる。

私自身、薬剤師の知人に「妊娠中の友人がこのサプリを飲みたいと言ってる」と相談したことがある。パッケージ写真だけ送ったら「これじゃ答えられない」と返ってきて、成分表示の全部を撮り直して送ったら「この成分は問題ない、この成分は量による、これは念のため主治医に」と3段階で返事が来た。専門家は成分名と含有量を見て判断する。

持っていく・送る情報

  • 製品名とメーカー名
  • 原材料名の全文(写真でOK)
  • 1日摂取目安量あたりの含有量表示(写真でOK)
  • いま服用中の薬・処方サプリ(鉄剤・葉酸剤など)
  • 授乳頻度(完母か混合か、1日何回か)

相談できる窓口

ひとつめは「妊娠と薬情報センター」(国立成育医療研究センター内)。妊娠中・授乳中の薬とサプリメントに関する情報提供を行っている全国の拠点病院を紹介してくれる。無料。

ふたつめは地域の薬剤師会が運営する「薬相談窓口」。薬局のカウンター相談でも、購入前の成分確認だけなら気軽に応じてくれる薬局が増えている。

みっつめはかかりつけの産婦人科・助産院。1か月健診・産後健診のタイミングで聞くのが自然。「これを買おうか迷ってる」と現物を持って行くと、その場で判断してもらえる。

ラベルで「これは避けたい」と判断するための実務的な線引き

結論から言うと、以下の3つのどれか1つでも当てはまれば、購入前に必ず専門家に確認する、というルールを自分の中で作っておくと迷いが減る。

基準1: 単一成分が食事摂取基準の推奨量の3倍を超える

ビタミンCのように水溶性で余剰が排出されるものは3倍でも問題ないケースが多い。ただ、脂溶性ビタミンやミネラルで推奨量の3倍を超える製品は、耐容上限量に近い可能性がある。数字が分からなければ、「これは推奨量の何倍ですか」と薬剤師に聞けばすぐ答えが出る。

基準2: 原材料に馴染みのないハーブ名が3つ以上並ぶ

単一のハーブなら情報を調べやすい。複数のハーブがブレンドされている製品は、相互作用や個別の授乳中データが揃っていないことが多く、判断が難しい。「美容ブレンド」「産後リセット」といったコンセプト名で複数ハーブを混ぜた製品は、成分ひとつずつを確認するのが現実的ではないため、慎重に。

基準3: 海外個人輸入品・並行輸入品

米国のサプリメントは、FDA(米国食品医薬品局)の規制が医薬品より緩い分野で、含有量の実測値と表示値に差がある製品が過去に報告されている。国内正規流通品なら、食品表示法・健康増進法の規制を受けている。心配なら国内メーカーの製品を選ぶ、というのはひとつの合理的な選び方。

「授乳中に飲む」ことを続けやすい形にする

結論。続けられなければ意味がない。授乳中のママの生活を考えると、以下の3点が現実的な選び方の軸になる。

ひとつめ、粒の大きさと飲むタイミング。産後は嚥下が疲れる時期でもあり、大粒の錠剤を1日6粒飲むのは負担が大きい。1日1〜2粒で済む製品や、粉末を白湯に溶かすタイプのほうが続く人が多い。

ふたつめ、匂いと味。産後のホルモン変動で嗅覚が敏感になる時期がある。ハーブ系や魚油系のサプリで、開封した瞬間の匂いがきつくて飲めなくなった、という話を実際にいくつか聞いた。可能ならサンプルや小容量から試すのが賢い。

みっつめ、価格の持続性。授乳期は少なくとも半年、長ければ2年続く。月3,000円のサプリを2年飲めば7万円を超える。家計に無理のない範囲で選ばないと、途中で急にやめることになる。

食事とサプリの役割分担

サプリはあくまで差分を埋めるもの。授乳期の食事で意識しやすいのは、鉄なら赤身肉と小松菜、カルシウムなら小魚と乳製品、ビタミンB群なら豚肉と玄米、ヨウ素なら海藻を過剰にならない範囲で。ビタミンDは食事より日光(1日15分程度の日光浴で皮膚合成される)が効率的というのも覚えておくと役立つ。

「食事でこれだけは意識する、残りをサプリで補う」という順序で考えると、サプリに頼りすぎず、食事のバランスも崩れにくい。

買う前に自分でできる情報収集

結論、以下の一次情報源を1つずつブックマークしておくと、パッケージだけで判断せずに済むようになる。

  • 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」— 推奨量・耐容上限量の一次データ
  • 厚生労働省「eJIM(統合医療情報発信サイト)」— サプリメント成分の科学的情報
  • 国立健康・栄養研究所「健康食品」の安全性・有効性情報 — 個別成分の学術的根拠
  • 国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」— 授乳中の薬・サプリ相談
  • 国民生活センター — 過去の健康食品トラブル事例

ここまで書いておいてなんだけど、正直、産後のママが全部読み込むのは現実的ではない。だからこそ、成分表示の見方を1つ覚えて、判断に迷ったら専門家に写真を送る、というシンプルな運用に落とし込むのがいちばん続く。

私が「授乳中サプリ」の記事を書くときに引っかかる違和感

ここは編集者としての視点を1つだけ書かせてほしい。授乳中のサプリメントに関する情報は、日本だとどうしても「産後ダイエット」「バストケア」「美容」の文脈で語られがちで、栄養学的な地味な話(食事摂取基準の付加量、耐容上限量、成分表示の読み方)は後回しになる。

一方、海外の授乳婦向け栄養ガイドラインは、まずミネラル・ビタミンの充足を語り、その上でハーブや機能性成分に触れる順序になっている。日本の情報が「後回し」なのは、健康食品市場が美容軸で発展してきた歴史があるからで、悪意ではなく、単に文脈がずれている。

だから読者にお願いしたいのは、産後の体を戻すため、キレイになるため、という文脈と、赤ちゃんに渡す栄養を安全に確保する、という文脈を分けて考えること。この2つは重なる部分もあるけど、優先順位が違う。まず後者を満たしてから前者を考える、という順番のほうが、結果として続けやすい選択になる。

まとめに代えて ― 判断は自分でしていい、ただし情報は取りにいく

授乳中のサプリメント選びは、正解が1つに決まらない領域。体質、授乳の頻度、日常の食事、経済状況、産院の方針、それぞれで最適解が変わる。

この記事で伝えたかったのは、判断を丸投げしないための材料。成分表示の3点(含有量・上限値・原材料順)を見る、脂溶性ビタミンとハーブは慎重に、迷ったら妊娠と薬情報センターか薬剤師に写真を送る。この3つだけ覚えておけば、店頭やネットで「これは大丈夫そう」「これはやめておこう」の当たりがつくようになる。

あとは、自分の生活リズムで続けられる形を探すこと。1日1粒でいい製品、匂いに耐えられる製品、家計に無理のない価格の製品。授乳期は思ったより長く、思ったより短い。無理なく続けられる選択を、自分の判断で選んでほしい。

参考: 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」、令和元年国民健康・栄養調査、国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」、日本小児科学会 乳児ビタミンD関連提言、EFSA カフェイン安全性評価(2015)

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