ポストバイオティクスとは何か|プロ・プレバイオティクスとの違いを整理

ポストバイオティクスとは何か|プロ・プレバイオティクスとの違いを整理

「ポストバイオティクス」という言葉を最近よく見かけるようになった。ヨーグルトの棚でも、サプリメントの説明文でも、健康雑誌の特集でも、じわじわ市民権を得ている。ただ、正確に説明できる人は少ない。

私自身、この言葉を初めて聞いたのは2021年頃だった。当時は「プロバイオティクスとどう違うの?」と社内で聞かれても、うまく答えられなかった。ISAPP(国際プロバイオティクス・プレバイオティクス科学協会)がその年に正式な定義を発表したばかりで、日本語での解説記事もまだ少なかったからだ。

この記事では、そのISAPPの2021年コンセンサス定義を軸に、プロバイオティクス・プレバイオティクス・シンバイオティクスとの違いを、できるだけ噛み砕いて整理する。腸活や発酵食品に興味がある人、サプリメントの成分表示を正しく読みたい人向け。

この記事の要点

  • ポストバイオティクスはISAPPの2021年コンセンサス声明で「宿主に健康上の利益をもたらす不活化(非生存)微生物および/またはその成分の調製物」と定義されている(Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology, 2021)。
  • プロバイオティクスは「生きた菌」、プレバイオティクスは「菌のエサ(食物繊維・オリゴ糖など)」、ポストバイオティクスは「不活化された菌体とその成分」で役割が異なる。
  • ポストバイオティクスの構成要素は、加熱殺菌された菌体、細胞壁成分、菌体外多糖(EPS)、テイコ酸、菌体タンパク、代謝産物など。
  • 短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸)は代表例として広く紹介されるが、単離された代謝物のみをポストバイオティクスに含めるかはISAPP定義上議論がある。
  • ポストバイオティクスは生菌ではないため、保存安定性が比較的高く、製造・流通での扱いやすさに特徴がある。

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ポストバイオティクスとは — ISAPPの2021年定義を正確に読む

ポストバイオティクスとは、ISAPPの2021年コンセンサス声明によれば「宿主に健康上の利益をもたらす不活化(非生存)微生物および/またはその成分の調製物」を指す。出典はNature Reviews Gastroenterology & Hepatology誌の2021年掲載論文(Salminenら)。この定義が、いま国際的に最も引用される標準的な定義になっている。

ポイントは3つある。まず、微生物が「不活化」つまり生きていないこと。ここがプロバイオティクスと決定的に違う。次に、その微生物そのもの、または微生物由来の成分を含むこと。そして、宿主に何らかの利益をもたらすと確認された調製物であること。

ここが意外と誤解されている。「ポスト=後」という語感から、「腸内細菌が作り出した代謝物のこと」と説明されることが多い。日本語の解説記事にもそう書かれているものが少なくない。ただ、ISAPPの厳密な定義では、単離された代謝物「だけ」はポストバイオティクスに含まれないとする議論がある。菌体そのもの(不活化されたもの)が含まれていて、初めてポストバイオティクスと呼べる、という立場だ。

この差は細かいようで、実は製品を選ぶときに効いてくる。「短鎖脂肪酸配合」とだけ書かれた製品と、「加熱殺菌乳酸菌配合」と書かれた製品では、ISAPP定義に照らすと後者のほうが「ポストバイオティクス素材」として正確、ということになる。

ISAPPは日本語版のインフォグラフィックも公開している(isappscience.org)。関心があれば原典に当たるのがいちばん早い。

プロバイオティクスとの違い — 「生きている」か「不活化されている」か

プロバイオティクスとポストバイオティクスの最大の違いは、菌が生きているか死んでいるか。これに尽きる。

プロバイオティクスは、FAO/WHOおよびISAPPで「十分量摂取したときに宿主に有益な効果をもたらす生きた微生物」と定義されている。ヨーグルトや納豆、キムチ、ぬか漬けなどに含まれる乳酸菌・ビフィズス菌・納豆菌などが代表的。生きた状態で腸に届き、腸内フローラのバランスに関わるとされている。

一方、ポストバイオティクスは加熱殺菌などで不活化された菌体、または菌体成分。生きていないので、腸内で増殖することはない。ただし、菌体そのものや細胞壁成分(ペプチドグリカン、リポテイコ酸など)が、腸管や免疫系に何らかの相互作用を持つとする研究が積み重なっている。

実務的な違いも大きい。プロバイオティクスは生菌なので、製造・流通・保存の全工程で「菌を生きたまま届ける」設計が要る。冷蔵が必要な製品も多い。一方、加熱殺菌済みのポストバイオティクスは保存安定性が高く、常温流通や高温を伴う加工食品への配合がしやすい。日本で流通している「加熱殺菌乳酸菌配合」のタブレットやドリンクは、この特性を活かした製品だ。

ちなみに、「生きた菌のほうが効きそう」というイメージを持つ人は多い。私も最初はそう思っていた。ただ、加熱殺菌乳酸菌の研究は1990年代から日本の乳業メーカーで進んでおり、菌体成分だけでも生体との相互作用が観察される、という報告は少なくない。生きているかどうかと、有用性があるかどうかは、必ずしもイコールではない、というのがいまの学術的な感覚。

プレバイオティクスとの違い — 「菌のエサ」なのか「菌そのもの」なのか

プレバイオティクスは、ポストバイオティクスとも、プロバイオティクスともまったく違う。菌ではなく、菌のエサだ。

ISAPPは2017年の声明で、プレバイオティクスを「宿主微生物によって選択的に利用され健康上の利益をもたらす基質」と定義している。基質、つまり素材。代表例はイヌリン、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、レジスタントスターチ、そして水溶性食物繊維全般。ゴボウ、玉ねぎ、バナナ、大麦、菊芋などに多く含まれる。

プレバイオティクスは自分の腸内にすでに住んでいる有用菌(ビフィズス菌など)のエサになり、菌の活動を後押しする。ここが「外から菌を入れる」プロバイオティクスと違うところ。プレバイオティクスを摂ると、腸内でビフィズス菌などが食物繊維を発酵し、短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸)が生まれる。

そう。この短鎖脂肪酸こそ、ポストバイオティクスの代表例としてよく紹介されるもの。つまり、プレバイオティクスを摂ることで、体内でポストバイオティクス(に近い代謝物)が作られる、という循環がある。

三者の関係を無理やり一言で言うと、こうなる。プロバイオティクスは「入れる菌」、プレバイオティクスは「その菌(と元から住んでる菌)のエサ」、ポストバイオティクスは「菌が働いた結果できる物質と、不活化された菌体そのもの」。

シンバイオティクスとの位置づけ — 4つの概念を整理する

シンバイオティクスは、プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせた製品概念。ISAPPが2020年に定義を発表している(Swansonら, Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology, 2020)。

具体例で言うと、「ビフィズス菌 + オリゴ糖」を配合したヨーグルト飲料や、「乳酸菌 + イヌリン」を組み合わせたサプリメントなど。菌とエサをセットで届けることで、菌の定着や活動を後押しする狙いがある。

これで4つの概念が出そろった。並べて整理してみる。

  • プロバイオティクス:生きた有用微生物。ヨーグルト・納豆・キムチなど。FAO/WHO・ISAPP定義。
  • プレバイオティクス:菌に選択的に利用される基質(食物繊維・オリゴ糖など)。ISAPP 2017定義。
  • シンバイオティクス:プロとプレの組み合わせ製品。ISAPP 2020定義。
  • ポストバイオティクス:不活化された微生物とその成分の調製物。ISAPP 2021定義。

この4つを覚えておくと、腸活系の商品パッケージがぐっと読みやすくなる。「乳酸菌配合」だけだと生菌なのか死菌なのか判別しにくいが、「加熱殺菌乳酸菌」「殺菌乳酸菌末」と書かれていればポストバイオティクス素材、「生きたまま届く」と強調されていればプロバイオティクス系、と読み分けができる。

ちなみに、この4つは対立関係ではなく補完関係。どれか1つが優れていて他が劣る、という話ではない。食生活の中で自然に組み合わさっているのが本来の姿。ヨーグルトにバナナを入れて食べる、というごく普通の朝食が、実はプロ+プレ+ポスト全部入りになっている。

ポストバイオティクスの構成要素 — 何が入っているのか

ポストバイオティクスの中身は、思ったより多様。ISAPPの2021年論文では、以下のような構成要素が例示されている。

  • 加熱殺菌や高圧処理などで不活化された菌体そのもの
  • 細胞壁成分(ペプチドグリカン、リポテイコ酸、テイコ酸)
  • 菌体外多糖(EPS, Exopolysaccharides)
  • 菌体タンパク、S層タンパク
  • 菌が産生した代謝産物(短鎖脂肪酸、有機酸、菌体外酵素など)
  • 菌体由来の核酸(DNA・RNA断片)

このうち、日本の食品・サプリメント市場で「ポストバイオティクス素材」として最もよく使われるのは、加熱殺菌された乳酸菌の菌体(いわゆる「死菌」「加熱死菌」「殺菌乳酸菌」と呼ばれるもの)。代表的な菌株としては、EC-12株(エンテロコッカス・フェカリス)、K-1株、L-137株、フェカリス菌FK-23株などがある。各乳業メーカーや素材メーカーが独自の株を持っていて、それぞれ研究データを積み上げている。

短鎖脂肪酸(SCFA)についても補足しておく。酢酸・プロピオン酸・酪酸の3つが代表で、いずれも腸内細菌が食物繊維を発酵して作る代謝物。酪酸は特に大腸の粘膜細胞のエネルギー源として知られ、糠漬けや酪酸菌配合の製品を通じて注目されている。ただ、前述のとおり、単離された短鎖脂肪酸「だけ」をポストバイオティクスと呼ぶかは、ISAPPの厳密な定義上は議論がある。日本の一般向け解説では代表例として扱われることが多いが、学術的にはグレーゾーン、という理解でいい。

もう一点。ポストバイオティクスの「利益」は、菌株や成分ごとに研究データが個別に蓄積されている。ポストバイオティクス全般で一括りに語れる話ではなく、「どの菌の、どの成分が、どんな条件で観察されたか」を株レベルで見ていく必要がある。ここは食品全般に言えることで、成分表示の菌株名まで見る癖をつけると、情報の解像度が一気に上がる。

ポストバイオティクスの摂取源 — 発酵食品と加工食品の位置づけ

ポストバイオティクスに近い成分は、実は日常の食生活にすでに含まれている。特に発酵食品には、生きた菌と一緒に、菌体成分や代謝産物が混在している。

たとえば、味噌。味噌の熟成過程では乳酸菌や酵母が働くが、市販の味噌は加熱殺菌されているものも多く、そういう味噌では菌はすでに不活化されている。菌体成分と発酵で生まれた代謝物は残っているので、ポストバイオティクス的な素材、という見方ができる。醤油、酢、みりん、日本酒なども構造は似ている。

ぬか漬けや生キムチのように生菌が残っているものはプロバイオティクス寄り。加熱調理する納豆料理や、火を通したキムチチゲなどは、菌が不活化されるので、ポストバイオティクス寄りに変わる。同じ食材でも、調理法で立ち位置が変わる。

市販のサプリメントや機能性食品では、加熱殺菌乳酸菌を配合した製品が2010年代半ばから急増している。日本の乳業メーカー各社が独自株の研究を進めており、タブレット、粉末、ドリンク、キャンディなど剤形は多岐にわたる。生菌製品と違って冷蔵不要のものが多く、持ち歩きやすい。旅行中の食生活が乱れるとき、私はこの手のタブレットを鞄に入れている。

選び方のコツを個人的な経験から言うと、まず菌株名が明記されているかを見る。「乳酸菌配合」だけの表記より、「エンテロコッカス・フェカリスEC-12株配合」のように具体的な株名が書かれているほうが、メーカーが研究に投資している証拠になる。次に、配合量。1回あたり菌体数がどのくらい入っているか(◯億個、◯兆個など)。三つめは、食生活とのバランス。サプリだけで完結させず、食物繊維・発酵食品・ポストバイオティクス素材を組み合わせるのが自然な形。

研究の現状と、これから — どこまで分かっていて、どこが未解明か

ポストバイオティクスの研究は、2021年のISAPP定義以降、加速度的に増えている。PubMedで「postbiotics」を検索すると、2020年以前は年間数十件だった論文が、2022年以降は年間数百件のペースで報告されている。腸内フローラ研究全体の伸びに連動している。

ただ、正直に書いておく。ポストバイオティクスは「何にどう働くか」の全体像がまだ整理途上の分野だ。菌株ごと、成分ごとの個別研究は積み上がっているが、「ポストバイオティクスとして一般化して語れる作用」はまだ少ない。生菌のプロバイオティクスと比べても、標準化された評価方法が未整備の部分がある。

ISAPP自身も、2021年の声明の中で「今後の研究課題」を複数挙げている。どの菌体成分が、どのメカニズムで、どんな健康アウトカムに関わるのか。生菌との比較でどこが同じで、どこが違うのか。摂取量と効果の関係。個人差(腸内フローラの個人差)による反応の違い。こういった問いに答えるには、あと数年〜十年単位のデータ蓄積が必要だと思う。

だから、消費者としてのスタンスとしては、「新しい概念だから飛びつく」でも「未解明だから無視する」でもなく、既存の食生活の延長で無理なく取り入れる、くらいが現実的。発酵食品を食べる、食物繊維を摂る、加熱殺菌乳酸菌の製品を試してみる。この積み重ねの中に、ポストバイオティクスの摂取は自然に含まれている。

まとめ — 4つの概念を混同しないための整理

ポストバイオティクスは、ISAPPが2021年に定義した比較的新しい概念で、「不活化された微生物とその成分の調製物」を指す。プロバイオティクス(生きた菌)、プレバイオティクス(菌のエサ)、シンバイオティクス(プロ+プレの組み合わせ)と並ぶ、腸活の第4の柱として位置づけられる。

4つの違いを一言で。プロは「入れる」、プレは「育てる」、シンは「入れて育てる」、ポストは「働いた後のもの・不活化されたもの」。この整理を頭に入れておくと、商品パッケージの表現が読めるようになる。

個人的には、この4分類を知ってから、スーパーの発酵食品売り場やサプリの棚を見る解像度が変わった。「乳酸菌」の一言でひとくくりにされていたものが、株レベル・状態レベルで区別できるようになる。それだけで食選びが少し楽しくなる、と思ってます。

最後に注意点。この記事は特定の症状や病気に対する効果を示すものではなく、ポストバイオティクスという概念と成分の客観的な整理を目的としている。健康上の不安がある場合は、食品での対応にこだわらず、医療機関に相談してほしい。食生活は日々の積み重ねで、劇的な変化を短期間で求めるものでもない。バランスの良い食事と適度な運動、そして自分に合った食品を長く続ける。これが結局、いちばん堅い。

参考文献・一次情報
・Salminen S, et al. "The International Scientific Association of Probiotics and Prebiotics (ISAPP) consensus statement on the definition and scope of postbiotics." Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology, 2021.
・Swanson KS, et al. "The International Scientific Association for Probiotics and Prebiotics (ISAPP) consensus statement on the definition and scope of synbiotics." Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology, 2020.
・Gibson GR, et al. ISAPP Consensus Statement on Prebiotics, 2017.
・ISAPP公式サイト ポストバイオティクス日本語資料(isappscience.org)
・FAO/WHO Guidelines for the Evaluation of Probiotics in Food, 2002.

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