腸内環境が気になる人が見直したい食生活とオーストラリア式食事の考え方

腸内環境が気になる人が見直したい食生活とオーストラリア式食事の考え方

腸の調子が悪い、と口にする人は増えた。厚生労働省の令和元年国民健康・栄養調査によれば、日本人の食物繊維摂取量の平均は18.4gで、目標量である男性21g・女性18g(18〜64歳)にわずかに届いていない。特に20代女性は14.6gまで落ち込む。数字で見ると、なんとなく気になる程度の話ではない。

この記事は、腸内環境が気になる人が食生活のどこを見直せばいいのか、そしてオーストラリア発祥のFODMAP食(Low-FODMAP)という食事アプローチが海外でどう扱われているのかをまとめたもの。私自身、去年の冬に腹部の張りが2ヶ月続いてから、真剣に食事を組み替えた経験がある。その過程で調べた一次情報と、実際にやって分かったことを混ぜて書く。

この記事の要点

  • 日本人の食物繊維摂取量は平均18.4g/日で、目標量に届いていない層が多い(厚生労働省 令和元年国民健康・栄養調査)
  • ヒトの腸内には約1,000種・100兆個の細菌が生息し、その構成は食事内容で数日単位で変化する(Nature 2014年掲載 David LAらの研究)
  • オーストラリア・モナッシュ大学が2005年頃に体系化したLow-FODMAP食は、発酵性の短鎖炭水化物を一時的に制限する食事法で、過敏性腸症候群の研究で用いられる
  • 日本の伝統食は味噌・納豆・漬物など発酵食品の摂取源が多く、食物繊維源としてはごぼう・ひじき・切り干し大根が高濃度
  • 食事の見直しは「足す」「引く」「観察する」の3段構えで進めるのが海外の栄養士の一般的な指導

毎日の習慣に取り入れやすい一本として、Five Point Detox も参考にしてみてください。

日本人の食物繊維は足りていないのか、数字で見る

結論から言うと、足りていない層がはっきりある。厚生労働省の令和元年国民健康・栄養調査を見ると、20〜29歳男性の食物繊維摂取量は17.5g、20〜29歳女性は14.6g。目標量(男性21g・女性18g)を下回っている。60代以降になると平均が20gを超えてくるが、若年層ほど低い。

ここで面白いのは、戦後すぐの1950年代は日本人の食物繊維摂取量が平均で20gを超えていたという記録が残っていることだ。1955年頃の推定摂取量は約22g(女子栄養大学の香川綾らの研究記録による)。つまり、日本人はもともと繊維をよく摂っていた民族で、この70年で減った。理由は単純で、麦飯が白米に変わり、根菜の煮物が減り、パンや麺の割合が増えたから。

私の家の話をすると、朝はトースト1枚、昼はコンビニのサンドイッチ、夜は白米と炒め物、というパターンが半年続いていた時期があって、その時期は本当に便通が滞った。試しに1週間、朝を玄米おにぎりと味噌汁に変えただけで、明らかに変わった。数字で追ったわけじゃないが、体感は嘘をつかない。

食物繊維には水溶性と不溶性がある。水溶性はごぼう・海藻・大麦・果物に多く、腸内細菌のエサになりやすい。不溶性は玄米・きのこ・豆に多く、便のかさを増やす。日本の従来食は両方がバランスよく含まれていたが、いまは水溶性が特に不足しやすいと言われる。

腸内細菌は「食事で変わる」のか

変わる。しかも早い。米デューク大学のDavid LAらが2014年にNature誌に発表した研究では、被験者に「動物性中心の食事」と「植物性中心の食事」をそれぞれ5日間与えたところ、腸内細菌叢の構成が食事開始から24〜48時間で変化したと報告された。1週間かからず、腸の中身は入れ替わり始める。

ヒトの腸内には約1,000種・100兆個の細菌が住んでいる。総重量にすると1〜1.5kgと言われ、これは肝臓とほぼ同じ重さ。これだけの生物が体の中にいて、食事のたびに勢力図が動いている、と考えると食事の話が急に生々しくなる。

ただし勘違いしないでほしいのは、「良い菌を増やせば健康になる」という単純な話ではないこと。菌の種類の多様性(ダイバーシティ)が高いほうが、環境変化に強い腸を持ちやすいというのが2020年代の腸内細菌学の主流な見方だ。特定の1種類を大量に増やすより、多品種を少量ずつ、が基本の考え方。

だから食事も「これだけ食べればOK」ではなく、「いろんな種類の植物性食品を週に何品目食べているか」で見る流派がある。米国のスタンフォード大学と英国のティム・スペクター教授(The Gut Health Doctorとして知られる)が推奨する「週30種類の植物性食品」というフレーズはここから来ている。野菜・果物・豆・ナッツ・種子・全粒穀物・ハーブを1品目ずつカウントする方式。

オーストラリア発のLow-FODMAP食とは何か

オーストラリアのモナッシュ大学(Monash University、メルボルン)が2005年前後に体系化した食事アプローチで、腸で発酵しやすい短鎖炭水化物を一時的に制限するもの。FODMAPは以下の頭文字。

Fermentable(発酵性)、Oligosaccharides(オリゴ糖:小麦・玉ねぎ・にんにく・豆類)、Disaccharides(二糖類:乳糖)、Monosaccharides(単糖類:果糖)、And、Polyols(ポリオール:ソルビトール・マンニトール・キシリトールなど)。

これらは健康な人にとっては問題ない栄養素だが、過敏性腸症候群(IBS)の研究では一部の人でお腹の張りや不快感を招くことが報告されている。モナッシュ大学のPeter Gibson教授とSue Shepherd博士のチームが臨床試験を重ね、2010年代に世界の消化器学会で認知されるようになった。

大事なのは、これは「一生続ける食事法」ではない、という点。海外の栄養士は3段階で指導する。第1段階は6〜8週間の除去期、第2段階は個別の食品を再導入して自分の反応を確かめる期間、第3段階は自分に合うものだけ残す長期化フェーズ。除去期をずっと続けると、逆に腸内細菌の多様性が落ちる可能性があるため、必ず再導入を経て個別化する。

私は去年、腹部の張りがひどかった時に、興味本位でこの考え方を試した。にんにく・玉ねぎ・小麦を4週間抜いてみたら、確かに張りは減った。でも4週目に無性にラーメンが食べたくなって、そこで気づいたのは「自分は小麦は平気で、玉ねぎを大量に食べると張る」タイプだったこと。人によって反応する食材が違うから、除去して終わりではなく、戻して観察するステップが本体だと思っている。

オーストラリア式食事の考え方が日本の食卓に示唆すること

オーストラリア式が日本の食生活にそのまま当てはまるかというと、そうでもない。オーストラリアの一般的な食事は小麦・乳製品・玉ねぎ・にんにくが多く、FODMAP除去でこれらを減らす意味が大きい。一方、日本の伝統食は米・魚・味噌・海藻が中心で、FODMAPの含有量は元々そこまで高くない食材が多い。

ただ、モナッシュ大学のアプローチから日本人が学べる点は3つある。

ひとつは「観察の姿勢」。何を食べて、何時間後にどんな体感があったかを2週間記録するだけで、自分の弱点食材が見えてくる。私はGoogleスプレッドシートに「朝食・昼食・夕食・便の状態・張り10段階」を書き込むだけの表を作った。3週目には玉ねぎの日は必ず張る、という自分の傾向が浮かんできた。

ふたつめは「一時的に引く」という発想。日本の食事指導は「これを足しなさい」が中心だが、オーストラリア式は「合わないものを一旦引いて、後で戻す」という引き算の思想。合わない食材を見つけるには、一度抜くほうが早い。

みっつめは「個別化」。人によって反応が違う前提で組み立てる。健康記事によくある「腸にいい食べ物ランキング」は平均値の話で、自分に効くとは限らない。ヨーグルトが合う人、逆に張る人、両方いる。

日本の伝統食が持っている腸への強み

日本の従来食には、腸内環境を意識する上で優れた要素が多く含まれている。具体的な食材と数値で見る。

ごぼうは水溶性食物繊維のイヌリンを豊富に含み、日本食品標準成分表2020年版(八訂)によれば、ごぼう100gあたりの食物繊維総量は5.7g(水溶性2.3g、不溶性3.4g)。根菜類ではトップクラス。ごぼうの原産地はユーラシア大陸で、平安時代には日本に伝わっていた記録がある。中国では薬用、日本では食用として発展した珍しい経緯を持つ。

納豆は大豆の発酵食品で、100gあたり食物繊維6.7g、たんぱく質16.5g(日本食品標準成分表2020年版)。納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)は熱と酸に強く、腸まで届きやすい菌として知られる。江戸時代の中期にはすでに江戸の朝食に組み込まれていた記録が残る。

切り干し大根は生の大根を天日干しして水分を抜いた保存食で、100gあたり食物繊維21.3gと極めて高濃度。宮崎県が全国生産量の約9割を占め、11月から2月の冬場に天日干しされる。1930年代の農林省の食糧統計にも既に主要保存食として記載されている。

味噌は米味噌・麦味噌・豆味噌があり、地域によって菌の構成が違う。信州味噌(長野県が中心産地で全国の味噌生産量の約4割)、九州の麦味噌、東海の豆味噌など、地域固有の発酵環境で作られてきた。

ひじきは100gあたり食物繊維51.8g(乾燥、日本食品標準成分表2020年版)。三重県・長崎県・大分県が主要産地で、伊勢志摩では春の風物詩として3〜4月に採取される。

これらを日常に組み込むと、週30種類の植物性食品というスタンフォードの目標にも近づく。うちの場合、朝の味噌汁の具を毎日変える(月:わかめ、火:大根、水:きのこ、木:豆腐、金:白菜)というだけで、それだけで週7種類は稼げる。

足す・引く・観察する:食生活を見直す実践フレーム

腸の状態が気になる時、何をどう変えればいいか。海外の栄養士がよく使うフレームを紹介する。3段構え。

【足す】まず不足を埋める。特に水溶性食物繊維、発酵食品、多様な植物性食品。目安は1日25g前後の食物繊維、週30種の植物性食品。ここは日本の伝統食を組み込むと自然にクリアできる。玄米、麦飯、味噌汁、納豆、海藻、根菜の煮物。うちは白米に大麦を2割混ぜているだけで、食物繊維量が朝夕で3〜4g増える。

【引く】次に、自分に合わないものを2〜4週間だけ引いてみる。候補は個別だが、よく挙がるのは小麦、乳製品、玉ねぎ・にんにく、人工甘味料(ソルビトール・キシリトールなど)。全部一気にではなく、1カテゴリずつ引くのが観察しやすい。

【観察する】食事と体調を記録する。私が使っているのは、時刻・食べたもの・便の状態(ブリストルスケール1〜7)・張り度合い10段階、の4項目だけ。手書きでもスプレッドシートでもいい。2週間つけると、自分のパターンが必ず見えてくる。

この3段構えで進めると、雑誌の腸活情報を鵜呑みにするより、自分の腸に合う食事が浮かんでくる。他人のベストは自分のベストじゃない、というのが腸内細菌学の大前提。

気をつけたい落とし穴

腸活を頑張るときに、逆効果になりやすいパターンをいくつか。

ヨーグルトを毎日大量に食べる。乳糖不耐(日本人の成人の約75〜85%が乳糖分解酵素が低下していると推定される、日本乳業協会の資料より)の人には合わないことがある。合うかどうかは1〜2週間止めてみて、体調が変わるかで判断する。

サプリメントで一気に解決しようとする。腸内細菌は多様性が命で、特定の1種類を大量に入れても長期定着しにくいという研究が2010年代から報告されている(Israel Weizmann Institute の Elinav 教授らの2018年 Cell 掲載研究など)。食事の土台なしにサプリだけ、は効率が悪い。

いきなり食物繊維を大量に増やす。不足していた人が急に1日30g摂ると、逆にお腹が張る。週単位で3〜4gずつ増やして、腸を慣らす方が体感がいい。私は最初にオートミールを朝に一気に入れて、3日間ずっと張った経験がある。

Low-FODMAPを長期継続する。除去期を6〜8週間で終わらせず何ヶ月も続けると、逆に腸内細菌の多様性が下がる可能性が複数の研究で指摘されている。あくまで一時的な観察ツール、が原則。

まとめ:自分の腸に合う食事を見つけるということ

腸内環境の話は、正解が1つあるわけじゃない。厚労省の調査で日本人の食物繊維が不足傾向にあること、腸内細菌が食事で数日で変わること、モナッシュ大学のFODMAP研究のような個別化アプローチが海外で発展していること、日本の伝統食に強力な繊維源と発酵食品があること、これらは全部事実で、動かない。動くのは、自分がどれをどう組み合わせるか。

私自身、去年の冬に張りが2ヶ月続いてから食事を見直して、いまも完全にコントロールできているわけじゃない。週末に外食が続くと戻る。ただ、記録をつける習慣がついてから、自分の腸のクセは分かるようになった。玉ねぎを大量に食べた日は翌日に張る。大麦を毎朝2割混ぜていると便通が安定する。ヨーグルトはヨーグルトを食べる日と食べない日でそこまで差がない。個別の答えは、記録の中にしかなかった。

足す・引く・観察する。この順で2ヶ月試すと、自分だけの食事の輪郭が見えてくる。他人のベストじゃなく、自分の腸のベストを探す作業だと思ってる。

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