授乳中のカフェインとアルコール、どこまでOK?代替飲料の選び方まで徹底ガイド
Oct 20, 2026
授乳中に「このコーヒー、飲んでいいのかな」と手が止まった経験、たぶん多くの人にある。産院で「カフェインは控えめに」と言われただけで、具体的な量は教えてもらえなかった、という声もよく聞く。アルコールにいたっては「飲んじゃダメ」とだけ釘を刺されて、じゃあ記念日のビール1杯はどうなのか、答えが宙に浮いたまま。
この記事は、授乳中のカフェインとアルコールについて、公的機関がどこまでを安全圏と線引きしているのか、母乳への移行はどれくらいなのか、そして「じゃあ何を飲めばいいのか」までを、できる限り数字と出典で整理したものだ。筆者はPoint Pharma日本公式代理店の編集担当で、授乳期の栄養補給についての問い合わせを日常的に受けている。そのやり取りで感じるのは、「ダメ」より「何mgまで」が知りたい、というリアルな切実さだ。
長い記事になるので、先に結論だけ知りたい人は次のブロックを読んでほしい。
この記事の要点
- 欧州食品安全機関(EFSA)は、授乳中女性のカフェイン摂取について「1回200mg以下、1日200mg以下」であれば乳児への健康リスクは生じないと科学的意見を示している(EFSA Journal 2015;13(5):4102)
- カナダ保健省は授乳期女性のカフェイン上限を1日300mgとしており、国際的な目安はおおむね200〜300mgに収束している
- 母親が摂取したカフェインの母乳への移行量はおおむね1%程度と報告されている一方、アルコールは母体血中濃度の約90〜95%が母乳中にも検出される
- 厚生労働省は「アルコールは授乳中の母乳に入り、乳児の発達を阻害する」と注意喚起しており、安全な摂取量の目安は示していない
- カフェインゼロの選択肢として、麦茶・ルイボスティー・黒豆茶・そば茶・たんぽぽコーヒー・デカフェコーヒーなどが現実的な候補になる
毎日の習慣に取り入れやすい一本として、Five Point Detox も参考にしてみてください。
授乳中のカフェイン、国際基準は「1日200〜300mg以内」で揃っている
結論から言うと、授乳中にコーヒーを完全にやめる必要はない。EFSA(欧州食品安全機関)が2015年に出した科学的意見では、授乳中女性のカフェイン摂取量が1回200mg以下、1日累計で200mg以下であれば、母乳を通じた乳児への健康リスクは生じないとされている(EFSA Journal 2015;13(5):4102)。カナダ保健省はもう少し幅があって、1日300mgまでを上限としている。
じゃあ200mgって、現実の飲み物でいうとどれくらいなのか。食品安全委員会の資料をもとに整理すると、ドリップコーヒーはカップ1杯(150mL)あたりおよそ90mg、インスタントコーヒーで約60〜80mg、紅茶が約30mg、煎茶が約20mg、玉露だと150mLで約240mgにもなる。玉露、意外と強い。
つまりドリップコーヒーなら2杯、紅茶なら6杯、煎茶なら10杯弱、までが200mgの目安。コンビニのトールサイズのコーヒー(約350mL)は1杯で150〜200mg近いこともあるので、サイズ感には注意したほうがいい。
ここで見落とされがちなのが「隠れカフェイン」。チョコレート、ココア、コーラ、エナジードリンク、一部の栄養ドリンク、鎮痛薬にも含まれている。厚生労働省のQ&Aによれば、カフェインを多く添加した清涼飲料水の濃度は製品によって32〜300mg/100mLと幅がある。コーヒーを控えてエナジードリンクに置き換えたら、むしろ超えていた、というパターンは普通にありえる。
個人的に、授乳期の相談を受けていていちばん多い誤解は「カフェインレス=カフェインゼロ」というもの。これは違う。デカフェコーヒーも微量(1杯あたり2〜5mg程度)のカフェインは残っていることがある。ゼロを求めるなら、麦茶やルイボスのようなカフェインを元から含まない飲料を選ぶ必要がある。
母乳へのカフェイン移行率は約1%、でも赤ちゃんは代謝が遅い
母親が飲んだカフェインが、どれくらい母乳に出るのか。報告によれば、摂取量のおよそ1%が母乳に移行するとされている。200mg飲んでも母乳に出るのは2mg程度。一見すると微々たる量に見える。
ただ、ここで一歩踏み込んで考えないといけないのが、赤ちゃんのカフェイン代謝速度の問題だ。成人の血中カフェインの半減期がおよそ3〜5時間なのに対して、新生児は80時間を超えることがある、という古典的な薬理データがある。生後3〜5か月で大人並みに短くなっていくが、それまでは「飲んだぶんが抜けきらないうちに次が来る」状態になりやすい。
これを踏まえると、授乳中のカフェイン摂取で意識したい変数は3つある。
ひとつは月齢。新生児〜生後3か月ごろは代謝が遅いので、同じ200mgでも体内に残りやすい。この時期は150mg以下くらいに抑えておくと無難、と考える専門家もいる。ふたつめはタイミング。授乳直後にコーヒーを飲んで、次の授乳までに2〜3時間空ければ、母乳中のカフェイン濃度は下がっていく(ピークは摂取後60分前後)。みっつめは赤ちゃんの反応。寝つきが悪い、授乳後に妙にぐずる、覚醒時間が長い、といったサインがあれば、カフェインを減らしてみる価値はある。もちろんカフェイン以外の原因も山ほどあるので、一対一の因果ではないけれど。
そう。「200mgまでなら大丈夫」は平均的な目安であって、個体差を無視する話ではない。
アルコールは別物。母乳への移行率が約90〜95%という事実
カフェインと同じ感覚でアルコールを扱うのは、たぶん一番危険な勘違いだ。摂取したアルコールは、母体血中濃度のおよそ90〜95%が母乳中にも検出される。移行率1%のカフェインとは、桁が違う。
厚生労働省のe-ヘルスネットでも「アルコールは授乳中の母乳に入り、乳児の発達を阻害する」と明確に注意喚起されており、「ここまでなら安全」という量の目安は示されていない。アメリカCDC(疾病対策センター)は「飲まないのが最も安全」と前置きしつつ、どうしても飲む場合の実用的なガイドとして「標準的な1杯(純アルコール約14g=ビール350mL/ワイン150mL/蒸留酒45mL程度)あたり、授乳までに最低2時間空ける」ことを推奨している。
血中アルコール濃度は摂取後30〜60分でピークに達し、そこから1時間ごとに体重1kgあたり約0.015%ずつ下がっていく、というのが古典的な代謝モデル。だから「飲んだ直後の授乳は避ける」「飲むなら授乳直後に少量」というのが現実的なラインになる。
もうひとつ知っておきたいのが、プロラクチンへの影響。長期・多量の飲酒は、吸啜刺激によるプロラクチン(母乳産生に関わるホルモン)の分泌を抑制することが報告されている。「お酒を飲むと母乳の出が良くなる」という古い俗説があるが、科学的にはむしろ逆で、母乳分泌量の減少が観察されている。
個人的には、授乳期間中は原則ノンアルコールで、どうしても飲みたい日のためにノンアルビールやノンアルワイン(※アルコール度数0.00%表記のもの)を常備しておくのが、ストレスも罪悪感も最小になる現実解だと思っている。アルコール度数1%未満の「微アル」はノンアルコール飲料ではないので、ここは表示をよく見てほしい。
カフェインゼロの飲み物、授乳中の定番6種を比較する
結論を先に書くと、授乳中の「毎日飲める定番」として最もバランスがいいのは麦茶、気分転換ならルイボスティー、コーヒーの代わりならたんぽぽコーヒーかデカフェ、という使い分けになる。それぞれの素性を見ていく。
麦茶。原料は大麦で、カフェインを含まない。日本では昭和中期以降、家庭で冷やし麦茶を飲む習慣が全国に広がった(それ以前は茶葉のお茶や白湯が中心だった)。クセがなく、水分補給の主力として一日中飲める。ミネラル感は弱いので、汗を大量にかく日は塩分の補給を別で考える必要がある。
ルイボスティー。南アフリカのセダルバーグ山脈周辺という、世界で一ヶ所でしか育たない豆科の低木「アスパラサス・リネアリス」の葉を発酵・乾燥させたもの。17世紀にオランダ移民が現地の原住民から飲用習慣を学び、1904年にロシア系移民のベンジャミン・ギンズバーグが商業化したのが始まりとされる。日本では1990年代後半から健康志向のお茶として広がった。カフェインを含まず、独特のほんのり甘い香りがコーヒーや紅茶を減らしたときの物足りなさを埋めてくれる。
ここで余談だけれど、ルイボスティーが日本であまり「お茶の棚」に並ばなかった時代が長かったのは、日本人が長らく「お茶=緑茶・ほうじ茶・麦茶」というローカル文化の中にいたからだと思っている。ハーブティー文化が定着する過渡期に、ちょうどノンカフェイン需要が高まって、ルイボスがその波に乗った。
たんぽぽコーヒー(たんぽぽ茶)。たんぽぽの根を焙煎して煎じた飲み物。ヨーロッパでは19世紀、ナポレオン戦争による大陸封鎖でコーヒー豆が入手困難になった時期に代用コーヒーとして広まった歴史がある。カフェインゼロで、焙煎香がコーヒーに近いので、朝のコーヒー習慣を置き換えやすい。味は本物のコーヒーより軽く、やや土っぽい香ばしさがある。
黒豆茶。黒大豆を焙煎した日本古来の飲み物で、丹波黒や光黒といった国産品種のものは香りが特に強い。カフェインゼロ、ほんのり甘い。食事と合わせやすい。
そば茶。韃靼そばの実を焙煎したものが特にポリフェノール含有量が多いことで知られる。香ばしく、食事とも相性がいい。そばアレルギーがある場合は当然NG。
デカフェコーヒー。生豆の段階でカフェインを除去したもの。製法は主に3つで、水抽出法(スイス式ウォータープロセス)、超臨界二酸化炭素抽出法、有機溶媒法。授乳中に選ぶなら、残留溶媒の心配がない水抽出法か超臨界CO2抽出法のものがわかりやすい。パッケージ裏の製法表示を見るクセをつけると選びやすい。デカフェでも微量(1杯2〜5mg)のカフェインは残るので、「ほぼゼロ」と理解しておく。
ハーブティー全般について一点補足すると、セージやペパーミントの大量摂取は母乳分泌量の低下に関連する報告がある。カモミール、ローズヒップ、ルイボスあたりは授乳中でも比較的使われることが多いが、妊娠・授乳期に避けたほうがいいとされるハーブ(セントジョーンズワート、フェンネル大量、ラズベリーリーフなど)もあるので、ハーブティーは「カフェインゼロ=全部安全」ではないことは覚えておきたい。
1日の飲み物、現実的な組み立て方
知識を並べても、翌朝の冷蔵庫の前で「で、何を飲む?」となったら意味がない。授乳中の24時間を、具体的な飲み物の配分で描いてみる。
たとえば朝7時。授乳を終えて、ドリップコーヒーを1杯(カフェイン約90mg)。昼12時、昼食と一緒に麦茶か黒豆茶。15時、小腹が空いたタイミングでデカフェラテ(カフェイン約5mg)かたんぽぽコーヒー。夕方17時、授乳の合間にほうじ茶を1杯(カフェイン約30mg)。夜は水かルイボスティー。
これで1日のカフェイン総量は125mg前後。200mgの目安に対して十分な余裕がある。コーヒーを完全にやめる必要はないし、むしろ「朝の1杯は死守して、それ以外はカフェインゼロで固める」みたいなメリハリの方が、精神衛生的に長続きする。
水分量の目安としては、授乳中は1日あたり通常より500〜700mL多い水分摂取が推奨されることが多い(個人差あり)。母乳の約88%が水分なので、脱水は乳量にも直結する。カフェイン入り飲料は利尿作用があるので、水分補給の主力はノンカフェインに置くほうが合理的だ。
うちで妻が授乳期だったとき、冷蔵庫に麦茶の2Lボトルを常に2本、ルイボスの水出しポットを1つ、常温棚にデカフェのドリップバッグを置いていた。これだけ揃えておくと、カフェイン摂取量を気にする脳のリソースをほぼ使わずに済む。地味だが効く。
カフェインレス・デカフェ製品、選ぶときの判断基準
結論は、「製法表示があり、残留カフェインの量が明記されている製品」を選ぶ。この2つが書いてある時点で、メーカーが品質管理に自信を持っている証拠になる。
デカフェコーヒーの3つの製法を、授乳期の視点で簡単に整理する。
水抽出法(スイスウォータープロセス):生豆を温水に浸してカフェインを溶出させ、活性炭フィルターでカフェインだけを吸着除去する。有機溶媒を使わないので残留化学物質の心配が少なく、カフェイン除去率は99.9%とされる。香味成分の一部も失われるため、やや軽い風味になる傾向。
超臨界二酸化炭素抽出法:高圧でCO2を液体と気体の中間状態(超臨界状態)にし、カフェインを選択的に抽出する。CO2は常温常圧で気化するので残留しない。香味の保持率が高く、現代のプレミアム系デカフェで主流。
有機溶媒法(直接法/間接法):ジクロロメタンや酢酸エチルなどの溶媒でカフェインを抽出する。コストは安いが、授乳中に積極的に選ぶ理由は特にない。
日本国内で販売されているデカフェ製品の多くは水抽出法か超臨界CO2抽出法を採用しているので、裏面の原材料表示欄近くに製法が書かれているはず。書いていない製品はメーカーに問い合わせるか、別の製品を選ぶ、くらいの判断でいい。
ノンカフェイン茶(麦茶・ルイボス・黒豆茶・そば茶など)については、原料の産地表示を見るのが実用的なチェックポイントになる。国産の麦茶、オーガニック認証のあるルイボス、丹波黒や北海道産の黒豆、国産の韃靼そば、あたりが選びやすい。
よくある疑問への短い回答
最後に、相談で頻度の高い質問に短く答えておく。
Q. ノンアルコールビールは授乳中OK? アルコール度数0.00%表記のものならアルコールの心配はない。ただし「ノンアル」でも1%未満の微量アルコールを含む製品があるので、表示をかならず確認。カフェインはビール系飲料には基本的に含まれない。
Q. 玉露や抹茶はどう? 玉露はカップ1杯でカフェイン200mg前後と、コーヒー2杯分に相当する。抹茶も1杯で30〜80mg程度。少量ならOKだが、他のカフェイン源との合算を忘れずに。
Q. チョコレートは? ミルクチョコレート100gでカフェイン約20mg、ダークチョコレートで約40〜80mg。常識的な量なら問題にならないが、1日に板チョコ1枚以上食べる習慣がある人は、合算で200mgを超えないか意識しておきたい。
Q. 搾乳して時間を置けばアルコール入りの母乳も使える? 搾乳して時間を置いても、母乳中のアルコールは「分解」されず、母体血中濃度の低下と並行して減っていく。つまり搾っておいた母乳の中のアルコールは減らない。飲酒後のタイミング調整は、母体の代謝時間を基準に考える必要がある。
Q. 母乳分泌を増やすお茶はある? 「母乳の出に良い」という訴求のハーブティーは市販されているが、科学的エビデンスのレベルは製品によって幅がある。水分摂取量を増やす、休息を取る、頻回に授乳する、といった基本の方が効果は確実とされている。
最後に:数字を知ると、罪悪感が薄れる
授乳中の食事と飲み物の話は、どうしても「あれもダメ、これもダメ」の方向に流れやすい。でも実際には、EFSAもカナダ保健省も「1日200〜300mgまでならカフェインは問題ない」と明言しているし、ノンカフェインの選択肢は昔より格段に増えている。
一方でアルコールは、カフェインとは明らかに別次元の話で、母乳への移行率が90〜95%というデータを知ってしまうと、「記念日の1杯」も慎重に考えたくなる。ここは個人の判断だけれど、数字を知った上で選ぶのと、知らずに雰囲気で選ぶのとでは、たぶん後悔の重さが違う。
この記事が、冷蔵庫の前で止まった手を、少し軽くする材料になればと思っている。あとは、授乳中の自分の体と赤ちゃんの様子を見ながら、ちょうどいい塩梅を見つけていくだけだ。judgeは読者に委ねます。
