シンバイオティクスとは|プロバイオティクスとプレバイオティクスの違いを整理する
Aug 08, 2026
「シンバイオティクス」という言葉を最近よく見かける。ヨーグルトの棚、腸活を扱った書籍、健康関連のニュース、気づけば、あちこちに出てくる。ただ、意味を正確に説明できる人はそれほど多くないはずだ。
私自身、この言葉に最初に触れたのは2019年頃、業界の勉強会だった。プロバイオティクスとプレバイオティクスの違いすら怪しかった当時の自分にとって、「その2つを組み合わせたもの」という説明はざっくりすぎて、腑に落ちなかったのを覚えている。実際、国際機関が定義を更新したのは2020年で、いまでもネット上には古い説明が混在している。
この記事では、シンバイオティクスという用語を、国際科学連合(ISAPP)の2020年コンセンサス定義をベースに整理する。プロバイオティクス、プレバイオティクス、そして最近登場したポストバイオティクスとの違いも並べて見ていく。日常の食事にどう落とすかも、後半でまとめた。
この記事の要点
- シンバイオティクスとは、生きた微生物(プロバイオティクス)と、宿主の微生物により選択的に利用される基質(プレバイオティクス)を組み合わせたものを指す(ISAPP 2020年コンセンサス)
- プロバイオティクスの定義はFAO/WHOが2001年に策定、ISAPPが2014年に再確認した「適切な量を摂取したときに宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物」
- プレバイオティクスはISAPPが2017年に「宿主の微生物により選択的に利用され健康上の利益をもたらす基質」と再定義
- ISAPPはシンバイオティクスを「相補型(complementary)」と「相乗型(synergistic)」の2種類に分類している
- ポストバイオティクスは2021年にISAPPが定義した別概念で、「生命のない微生物およびその成分の調製物」を指し、シンバイオティクスとは区別される
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シンバイオティクスとは何か、2020年ISAPP定義の正確な理解
シンバイオティクスとは、生きた微生物と、その微生物(または宿主の腸内微生物)が選択的に利用する基質を組み合わせた混合物のことだ。定義の出典は、国際科学連合ISAPPが2020年にNature Reviews Gastroenterology & Hepatology誌で発表したコンセンサス文書(Swanson KS et al., 2020)にある。
この定義、実は歴史的に3段階を経ている。最初にsynbioticsという語を提唱したのは、1995年のGibsonとRoberfroidの論文だった。当時の定義は素朴で、「プロバイオティクスとプレバイオティクスの組み合わせ」という程度のもの。ただこの定義には穴があって、たとえば「生きた菌」と「その菌が食べない糖」を単にセットにしても定義上シンバイオティクスと呼べてしまう。
2020年のISAPPの再定義は、この曖昧さを埋めるために出てきた。要点は「宿主に有益な効果をもたらす、生きた微生物と宿主の微生物により選択的に利用される基質からなる混合物」、ここで重要なのは「選択的に利用される」という条件だ。適当な組み合わせではなく、機能的に噛み合っていることが求められる。
もうひとつ押さえておきたいのが、ISAPPが同じ2020年文書で提示した2つの分類だ。
相補型(complementary synbiotics)、プロバイオティクスとプレバイオティクスをそれぞれ独立に選び、組み合わせたもの。各成分が単独でも定義を満たす必要がある。ヨーグルト(乳酸菌)+バナナ(食物繊維・オリゴ糖)のような食事的な組み合わせがイメージに近い。
相乗型(synergistic synbiotics)、生きた微生物と、その微生物が特異的に利用する基質を組み合わせたもの。単独では定義を満たさなくてもよい。研究レベルではこちらのほうが理論的にきれいで、開発の主流になりつつある。
個人的には、この2分類が知られていないことが、市場でシンバイオティクスの意味が混乱する一因だと思っている。「シンバイオティクス配合」と書かれた食品を見たとき、それが相補型なのか相乗型なのかで、設計思想がまるで違うからだ。
プロバイオティクスとは、1965年から続く「生きた菌」の話
プロバイオティクスは、適切な量を摂取したときに宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物、と定義される。FAO/WHOが2001年に策定し、ISAPPが2014年に再確認した定義だ(Hill C et al., Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology, 2014)。
語源はギリシャ語のpro(〜のために)+bios(生命)で、抗生物質(antibiotics=生命に対抗するもの)の対義的な位置づけで作られた造語。1965年にLillyとStillwellが最初に使ったとされているが、当時の定義は現在とは違い、動物間で成長を促す物質という意味だった。定義が現在の形に近づいたのは1989年のFullerによる再定義以降、確立したのが2001年のFAO/WHO会議、という流れになる。
代表的な菌種は、乳酸菌(Lactobacillus属、現在は分類再編でLactobacillaceae科の複数属に分かれた)とビフィズス菌(Bifidobacterium属)。日本の発酵食品の文脈でよく出てくるものだと、ヨーグルトや乳酸菌飲料に含まれる各種の株、納豆に含まれる納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)などが挙げられる。
ここで一つ、意外と誤解されている点を書いておきたい。「乳酸菌が入っている=プロバイオティクス」ではない。プロバイオティクスとして認められるには、株レベルで有益な作用が科学的に確認されていること、生きたまま十分な数が摂取されることなどが求められる。ヨーグルトのラベルに菌株名が書かれているのは、この定義に対応するためだ。
ちなみに、厚生労働省の統合医療情報発信サイト(eJIM)でも、プロバイオティクスの効果は菌株ごとに評価すべきで、「乳酸菌全般」でまとめて論じるのは不適切という趣旨の記述がある。菌株の違いは、犬種の違いくらいには意味が変わる、と考えたほうがいい。
プレバイオティクスとは、「菌のエサ」という説明は不正確
プレバイオティクスは、宿主の微生物により選択的に利用され、健康上の利益をもたらす基質、これがISAPPが2017年に発表した再定義だ(Gibson GR et al., Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology, 2017)。
「腸内の善玉菌のエサ」というざっくりした説明を目にすることがあるが、これはやや不正確。ポイントは「選択的に利用される」の部分にある。腸内のあらゆる菌が食べられる糖ではなく、健康に良い方向に作用する菌が優位に利用する基質、というニュアンスが必要だ。だから、消化されて宿主自身に吸収されてしまう砂糖はプレバイオティクスに該当しない。
代表的な素材は、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、イヌリン、難消化性デキストリン。いずれも小腸で消化・吸収されず、大腸に届いてから腸内細菌に発酵される難消化性糖質だ。イヌリンはごぼう・玉ねぎ・キクイモに、ガラクトオリゴ糖は母乳や豆類に、フラクトオリゴ糖は玉ねぎ・アスパラガス・バナナに含まれる。
大腸に到達した後、これらの糖はビフィズス菌などによって発酵され、短鎖脂肪酸(酢酸・酪酸・プロピオン酸)を生み出す。この短鎖脂肪酸は近年、腸内環境の研究で最も注目されている代謝産物のひとつで、Nature系ジャーナルに関連論文が続々と出ている。
2017年の定義更新で興味深いのは、プレバイオティクスが「腸内」に限定されなくなったこと。皮膚や口腔、泌尿生殖器の微生物叢に作用する基質も、条件を満たせばプレバイオティクスに含まれる可能性が示された。まだ食品市場では腸のイメージが圧倒的だが、研究の裾野は広がっている。
ポストバイオティクスとは、2021年に定義された「別物」
ここまで整理してきたシンバイオティクスと混同されやすいのが、ポストバイオティクスだ。名前は似ているが、別概念。
ISAPPが2021年に定義したポストバイオティクスは、「宿主に健康上の利益をもたらす、生命のない微生物および/またはその成分の調製物」(Salminen S et al., Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology, 2021)。ここで決定的なのは「生命のない(inanimate)」という部分。生きた菌を必要とするプロバイオティクス/シンバイオティクスと明確に線引きされている。
具体的には、熱処理などで殺菌された菌体、菌が産生した代謝産物、菌の細胞壁成分などが含まれる。日本でよく話題になる「殺菌乳酸菌」や「熱処理乳酸菌」も、この定義に該当する製品群だ。
4つの用語を並べて整理すると、こうなる。
プロバイオティクスは「生きた菌」そのもの。プレバイオティクスは「菌が選択的に利用する基質」。シンバイオティクスはその2つの「組み合わせ」。ポストバイオティクスは「生命のない菌体または菌の代謝産物」。
この4つは、それぞれ独立した定義を持つ別の概念で、機能も作用機序も違う。SNSなどで「バイオティクス」でまとめて論じられているのを見かけるが、混ぜて理解しないほうがいい。
シンバイオティクスが注目される理由、なぜ「組み合わせ」なのか
プロバイオティクスとプレバイオティクスをそれぞれ単独で摂ることに比べて、組み合わせて摂ることに何の意味があるのか。ここが多くの人が抱く素朴な疑問だと思う。
理論的な背景を整理すると、いくつかの根拠が挙げられている。第一に、口から摂取した生きた菌は、胃酸や胆汁酸による過酷な環境を経て大腸まで到達する必要があり、生存率が課題になる。第二に、大腸まで到達しても、そこで定着・増殖するためのエサ(基質)が必要になる。プレバイオティクスを同時に摂ることで、この課題への対応が期待されている。
ただし、正直に書いておきたいのは、シンバイオティクスの臨床的な有用性は、対象疾患・使用する組み合わせ・被験者背景によって結果がまちまちだということ。2020年のISAPPコンセンサス文書自体も、「シンバイオティクスの効果は、含まれる各成分から予測できない」「組み合わせごとに検証が必要」という慎重な立場を取っている。
医療現場では、消化器外科の術後管理や集中治療領域で、シンバイオティクスの投与が研究されてきた歴史がある。日本の医学系論文にも、消化器外科術後の感染性合併症に対する検討がいくつかある。ただ、これは医療従事者の管理下で行われる臨床研究の話で、市販食品の話とは別のレイヤーだ。
個人的な視点を書くと、シンバイオティクスの本当の面白さは、腸内細菌の研究が急速に進んでいる今のタイミングで、「菌」と「その環境」をセットで考える発想が定着してきたことだと思っている。20年前の栄養学では、栄養素は栄養素、菌は菌、と別々に扱われていた。それがいまは、菌叢と代謝産物と食事成分を一続きの系として捉える方向に来ている。シンバイオティクスという概念は、その象徴的な言葉だ。
日本の食卓におけるシンバイオティクス、組み合わせの具体例
難しい話が続いたので、実際の食事に落としてみる。日本の食卓には、シンバイオティクスと呼べる(あるいはそれに近い)組み合わせが、実はもともとたくさんある。
もっともイメージしやすいのが、ヨーグルト+バナナ。ヨーグルトの乳酸菌・ビフィズス菌(プロバイオティクス)と、バナナに含まれるフラクトオリゴ糖・食物繊維(プレバイオティクス)の組み合わせだ。朝食で普通に食べている人も多いはず。個人的にも、平日の朝はこのパターンが定着している。
ヨーグルト+はちみつ+オートミール、というのも近い発想。はちみつには少量のオリゴ糖が、オートミールにはβ-グルカンなどの水溶性食物繊維が含まれる。
和食寄りだと、納豆+ネギ・玉ねぎ。納豆菌(プロバイオティクス的な存在)と、ネギや玉ねぎに含まれるフラクトオリゴ糖の組み合わせ。納豆に刻みネギを乗せるのは味の相性だけの話じゃない、という見方もできる。
味噌汁+ごぼう、というのも捨てがたい。味噌の発酵に関わる微生物と、ごぼうに豊富に含まれるイヌリンの組み合わせだ。豚汁にごぼうを入れるのは、栄養学的にもよくできている。
ここで一つ注意点を書いておくと、これらは厳密なISAPP定義の「シンバイオティクス製品」ではない。あくまで「シンバイオティクスの発想に近い食事の組み合わせ」と理解したほうがいい。定義上のシンバイオティクスは、含まれる菌の株、量、基質の量、そして両者の機能的な整合性まで含めて設計されたものを指す。
それでも、日常の食事でこの発想を持つことには意味がある。特定の食品に頼るのではなく、発酵食品と食物繊維源をセットで意識すると、自然に組み合わせが増える。個人的には、料理を作るときに「発酵しているもの」と「大腸まで届くもの」の両方が食卓に乗っているかを、なんとなくチェックするようになった。
選ぶときの視点、製品ラベルで何を見るか
市販の「シンバイオティクス」を謳う食品やサプリメントを選ぶとき、何を見ればいいか。定義から逆算して整理しておく。
まず、含まれる菌の情報。菌種だけでなく、菌株レベル(例:Bifidobacterium longum BB536のように)で明記されているか。プロバイオティクスの定義上、株レベルでの記載があるほうが、根拠のある製品である可能性が高い。
次に、菌の生菌数。CFU(コロニー形成単位)で何個含まれているか。目安として、多くのプロバイオティクス製品は10億〜1000億CFU程度の範囲で設計されている。ただし、必要な菌数は菌株と目的によって違うので、単純に「多ければ良い」わけではない。
プレバイオティクス側は、素材名(フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、イヌリン、難消化性デキストリンなど)と含有量。ここが「食物繊維◯g」としか書かれていない場合、プレバイオティクスとしての選択性が担保されているかは判断しにくい。
相補型と相乗型のどちらとして設計されているか、まで書かれた製品は日本の市場ではまだ少ない。ここは今後、業界の情報開示が進んでほしい部分だ。
ちなみに私は、製品を選ぶときに「配合されている菌株について、企業サイトに研究データへのリンクや論文情報があるか」を見ることが多い。エビデンスに真剣な企業ほど、情報公開に手を抜かない傾向がある、というのが個人的な経験則。
整理、4つの用語を1枚のマップにする
最後に、この記事で扱った4つの用語を、頭の中で1枚のマップに整理しておきたい。
プロバイオティクス、生きた菌そのもの。1965年に語が誕生、2001年FAO/WHOで定義確立、2014年ISAPP再確認。代表:乳酸菌、ビフィズス菌。
プレバイオティクス、菌が選択的に利用する基質。1995年に概念提唱、2017年ISAPP再定義。代表:フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、イヌリン、難消化性デキストリン。
シンバイオティクス、上記2つの組み合わせ。1995年提唱、2020年ISAPPコンセンサスで再定義。相補型と相乗型の2分類。
ポストバイオティクス、生命のない菌体や菌の代謝産物。2021年ISAPP定義。上記3つとは別カテゴリ。
この4つは、腸内細菌研究の20年間の進展を反映した、それぞれ独立した定義を持つ用語だ。似た響きに惑わされず、機能的にどう違うかで理解したほうが、これから登場する新しい概念(すでに「サイコバイオティクス」など派生語が出始めている)にも対応しやすい。
個人的に、この分野は10年前と比べると信じられないくらい情報が整理されてきたと思う。それでも、日本の一般向け情報にはまだ古い定義や誤解が混ざっている。ここに書いた内容が、用語を整理するための最初の地図として役に立てば嬉しい。あとは、それぞれの食生活で、自分に合うペースで発酵食品と食物繊維源を組み合わせていくだけだと思う。
参考にした主な出典
本記事の定義部分は以下を参照した。
- Swanson KS et al. The International Scientific Association for Probiotics and Prebiotics (ISAPP) consensus statement on the definition and scope of synbiotics. Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology, 2020.
- Hill C et al. Expert consensus document. The International Scientific Association for Probiotics and Prebiotics consensus statement on the scope and appropriate use of the term probiotic. Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology, 2014.
- Gibson GR et al. Expert consensus document: The International Scientific Association for Probiotics and Prebiotics (ISAPP) consensus statement on the definition and scope of prebiotics. Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology, 2017.
- Salminen S et al. The International Scientific Association of Probiotics and Prebiotics (ISAPP) consensus statement on the definition and scope of postbiotics. Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology, 2021.
- 厚生労働省 統合医療情報発信サイト(eJIM)「プロバイオティクス」
